【紅緒文庫からのご案内】
「戦略脳を鍛える」(御立尚資著 東洋経済新報社刊)
BCG流の戦略発想の技術
“ポーター”を読んだだけでは勝てる戦略はつくれない!
ボストン・コンサルティンググループが持つノウハウの中核部分を初公開!
定石を超えた「イノベーション」を生み出すための発想を解説。
定石を超えるために「インサイト」を身につける
マイケル・ポーターに代表されるアカデミックな戦略論は、過去の成功例を「後解釈で定石化」している。したがって、それを学ぶことは、「イロハのイ」にすぎない。ちょうど、囲碁や将棋の初心者が、定石・定跡から学び始めるのと同じだ。もちろん定石・定跡を学ぶだけではプロになれるわけではない。さらに、プロ同士の戦いを勝ち抜くには定石・定跡を知ったうえで、新しい戦い方をつくりあげる「プラスアルファの能力」を身につける必要がある。
経営戦略についても全く同じで、戦略論という定石を知ったうえでの「プラスアルファの能力」が必要になる。本書ではその能力を「インサイト(Insight)」と呼んでいる。
では、この「インサイト」はどのようにして身につくのか。その答えは本書の中にある。
はじめに
戦略論を学ぼうという人は多い。グローバル競争や規制緩和を通じて、ありとあらゆる業界で新しい戦い方が必要とされている現在、当然の動きだといえよう。
(中略)
その経験を通じて強く感じていることは、「戦略論を勉強するだけでは、『勝てる戦略』はできない」ということだ。さらにいうと、「勝てる戦略」をつくるためにはアカデミックな勉強だけではなく、「ある種の『頭の使い方』を身につける訓練が不可欠』なのである。
戦略論事態の意義を否定してるわけではない。マイケル・ポーターに代表されるアカデイミックな戦略論は、企業の勝ちパターンをミクロ経済学の視点で定量分析し、何らかの枠組みとして提示したものだ。
(中略)
誰かが成功パターンを見つけ出すと、多くの企業にモノマネされ、その戦い方では差別化できなくなる。そうすると別の誰かがユニークな戦い方を考案し、勝ちを収める。(中略)「定石を超えた戦い方のイノベーション」こそが、戦略の本質なのである。
(中略)
ある意味では、本書は、われわれのノウハウの中核部分を初めて外部に開示するという面がある。考えようによっては、自分たちの商売の価値を下げることにもつながりかねない。しかしながら、、、、。(中略)この本を手に取ってくださった方が、「インサイト」を身につけ、日本の競争力強化の担い手となってくれることを強く望んでいる。
第一章 インサイトが戦略に命を吹き込む
第二章 思考の「スピード」をあげる
2-5 シャドウボクシングを行うー右脳と左脳のコラボレーション
ーアイデアや仮説を絞り込み進化させるー
パターン認識とグラフ発想でさまざまなアイデアをだし、仮説を立てていく。ただし、出てきたアイデアや仮説がすべて筋のよいものであるはずがない。戦略として使えるものにするためには、何らかの形で検証して、筋の悪いものをはじくことが必須だ。さらに、生き残った仮説も、ああでもないこうでもないと、複数の視点でチェックし、質の高いものに進化させていかなけっればならない。
(中略)
戦略構築の場合は、批判的な視点で仮説をあらゆる方向から攻撃してみる。そして、受ける側は攻撃をしのぎながら、仮説を高め、攻めにでていく。仮説の検証が必要ならば、現場に出てデータを集めてみる。こういった作業をどんどん繰り返すことが、知的シャドウボクシングである。
(中略)
たとえば、元大蔵省財務官の慶應義塾大学教授榊原英資氏が、京都学派の文化人類学者梅棹忠夫さんの学問手法について、こう表現している。
「世界が大きく変わっているときには、既存の理論では現場は読めない。もちろん、ただ現実を見るというだけではどうにもならない。その時々、仮説をたてながら現場と概念的枠組みをいったりきたりする知的ゲーム、それが、本当の学問ではないか」(日本経済新聞 2003年9月28日朝刊)
あるいは、ノンフィクション作家佐野眞一氏は、このように述べている。
「ノンフィクションライターの力量とは、けだし、『仮説』が『事実』によって裏切られた時点で引き返してしまうか、それとも、それを新しい『謎』として受け止め、さらなる『事実』追及に向かって自分を鞭打てるかどうかの差である」(『私の体験的ノンフィクション術』集英社新書)
これらは、まさに経営戦略の知的シャドウボクシングと同じだ。現場、すなわち観察事実とコンセプトをいったりきたりすることを、自分に強いる。このクセをつけることが、ユニークかつ筋の良い戦略をつくる能力につながっていくのだ。
ー組織を動かすための「シャドウボクシング」-
シャドウボクシングの目的は、仮説のレベルアップだけではない。立てた戦略を他人に理解されやすいものにし、組織が新しい戦略に従って動くようにするためにも役立つ。
多くの場合、右脳主導でつくった仮説や戦略案は自分自身にはよくわかるが、他人には理解しずらい「イメージ」にとどまっている。
右脳をつかって発想しアイデアを出したら、次に、左脳でチェックして人に説明できるような論理に落とし込み、周囲の人を納得させて適切な戦略として認めてもらう必要がある。
人は自分に理解できない戦略にしたがって行動することはないし、行動をともなわない戦略には何の価値もないからだ。つまりイメージを論理に転換しなければ、人や企業組織が動くことはなく、有効な戦略にならないということである。
(中略)
ー幽体離脱する感覚をもつ-
BCGで後輩コンサルタントの指導にあたっていると、インサイトを容易に身につけていく人とものすごく苦労する人がいる。気をつけてみていると、インサイトをどんどん身につけてしまう人は、物事を二重人格的に考えられる人だとわかった。二重人格的と表現したのは、物事を考えるときに自分の中でまったく逆の立場に立ってみることが、ごく自然に実行できるという意味だ。例えば、、、(中略)になる。
ー頭の使い方のクセを知るー
頭の使い方のケセを知る問題(写真)
ー左右の脳をバランスよく使うー
(答えは本書をご覧ください)
ー思考のプロセスヲチェックするー
このクイズのポイントは解けたか解けなかったかではなく、自分はどういった順番で何を考えて、この答えに行きついたか、というシンキング・プロセスを明らかにすることにある。
(中略)
人間はまわりの人も自分と同じように考えていると思い込んでいるが、実際には違うのである。
ー意識的に鍛えて思考をスピードアップするー
効率的に戦略脳を鍛えるためには、自分の頭の使い方にはクセがありバイアスがかかっていることを普段から意識し、いつもと違う使い方を積極的にしていかなくてはならない。
第三章 三種類のレンズで発想力を身につける
第四章 インサイトを生み出す「頭の使い方」を体験する
ー理想的な「継続的優位性」を構築するためにー
異質な人材を集める「多様性からの連帯」。そして、クリエイティブを刺激する「雰囲気づくり」と「ルール設定」。あえて、一般化すれば、どれも日本人が苦手とすることだ。
同質の人間が集まって、以心伝心の世界で働くことは、心地よい、、
、、、(省略)。
おわりに
丸谷才一氏が「思考のレッスン」(文藝春秋)という著書の中で、本を読むことの効用を三つあげられている。情報が得られる、考え方を学ぶことができる、書き方を学べるという三種類だ。この本は、「考え方を学べる」本にしたいと心がけてみましたが、いかがだったでしょうか。(中略)少しでも「ああ、こんな風に頭を使うのか」と思っていただければ大成功だと思っています。
著者紹介
ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)シニア・パートナー&マネージング・ディレクター、BCGフェロー 京都大学文学部卒、ハーバード大学経営学修士(MBA)